「うみねこのなく頃に」には様々な物語が含まれています。
メッセージボトルの物語、偽書の物語、ゲーム盤の物語、戦人とベアトリーチェのメタ世界の物語、98年の縁寿の物語、八城十八の物語、寿ゆかりの物語、ベルンとラムダの物語、フェザリーヌの物語、その他キャラクターの物語などなど……

ここではこれらの膨大の物語がうみねこの世界構造の中でどのような位置付けになっているのかを以下の様な図にまとめ、EP1からEP8まで全てのストーリーの流れをスケール順に追って解説したいと思います。
また、本記事の理解には過去に書いた「ベアトリーチェの魔法大系」「朱志香と殺人扇風機」に関する考察記事が役立ちますので、合わせてお楽しみ頂けます。

階層図・改



1.人間界の物語(創作物、ニンゲンの物語、魔女の物語)

魔女の階層
 図1.人間界に含まれる階層

まず、作中のニンゲン(魔法を使わない人間と言う意味で使用)は「創作物」を生み出すことができます。
これが「うみねこのなく頃に」を構成する物語の中で一番スケールが小さなものです。
具体的には、安田紗代に書かれたメッセージボトルや、八城十八に書かれた偽書のことで、これらは纏めて「メッセージボトルの物語」と呼びます。
ここで、EP1から連続しているようなメタ戦人主観の物語が安田紗代の書いたメッセージボトルの物語にそのまま書かれていなくても構いません。それらは上位の存在に観測されることで描写される内容と解釈できるからです。
(参考:朱志香と殺人扇風機のススメ:書かれた物語とゲーム盤における主観について、同様の構造である考察があります)

また、創作物の中には他に真里亞の日記絵羽の日記(一なる真実の書)なども含まれます。

人間の世界、すなわち人間界ではニンゲンが創作物を観測したり、想像を行った結果その「内面世界」の様子を幻想的に脚色した「魔女の物語」が描写されます。
具体的には、ボトルメッセージを読んで推理を行う記憶喪失中の十八や、偽書の物語や真里亞の日記を読んで真相を追う縁寿の物語などの幻想的な物語が魔女の物語に当てはまります。
これらの物語はニンゲンの視点からは幻想描写の無い出来事(ミステリー解釈)として解釈され、魔女の視点からは幻想描写の存在する出来事(ファンタジー解釈)として解釈されます。

以上までの話を踏まえ、EP1~4までの物語をここで一度時系列順に整理すると、

安田紗代がメッセージボトルを制作→六軒島爆発事故→記憶喪失となっていた十八がメッセージの物語を読む→十八が真相に至る→八城十八が偽書を執筆
と言う流れになり、これに六軒島爆発事故の後で縁寿が真相を求め始めるという流れが重なったような形になります。

そのニンゲンの世界での出来事に人物の内面世界を合わせて幻想的に描写したものが「魔女の物語」となります。


2.ラムダデルタの推薦

メタ世界
 図2.ベアトリーチェの領地

前述した 「魔女の物語」を観測・鑑賞するのが「航海者」と呼ばれる上位魔女です。
航海者ラムダデルタは、安田紗代の生み出した創作物と内面世界を魔女の魔法大系であると認めました。
(参考記事:ベアトリーチェの魔法大系(3) 後見人とは?)
その結果、1986年10月5日~6日の2日間の物語が、図1の構図に対応するようにゲーム盤とメタ世界で構成されるベアトリーチェの物語が描写されることとなりました(図2)

ゲーム盤世界はミステリーの真相を核として、魔女幻想で脚色した物語。そして真相が猫箱に閉じ込められた物語を巡ってプレイヤーの戦人とゲームマスターのベアトがミステリーとファンタジーの戦いを繰り広げるのがメタ世界の物語です。

メタ世界は六軒島の惨劇の結果海に沈んだベアトリーチェを追って自らも海の底に沈み、その記憶を失った戦人が海の底の猫箱の中でベアトリーチェの魔女幻想を否定するというところから始まりました(EP7)。
これは、図1のニンゲン世界において記憶を失った十八がメッセージボトルの物語を読み、真相を求めたと言う流れに該当し、海の底という描写は全てを理解した八城十八が猫箱の物語のピリオドとして描写したシーンに由来します。

そしてこの物語を見つけ、猫箱の真相を暴こうとするものがもう一人の航海者ベルンカステルです。


3.ベルンカステルの参戦

カケラの海
 図3.ベルンカステルの観測するカケラ世界

ベルンカステルはカケラの海でラムダデルタが用意したカケラを見つけ、魔女幻想の真相を暴こうとする戦いを挑みます。
ベルンはこの物語の真相を直接観測することができません。なぜなら、ラムダがベアトの後見人となっているため、ラムダに認められた魔女ベアトによる幻想的な物語しか観測できないからです。
ただし、ラムダが保証するのはベアトが絶対の意志で魔女になることができている1986年の親族会議2日間だけです。
つまりベルンは図3において、1986年の2日間についてはメタ世界とゲーム盤を、それ以降については魔女の階層とニンゲンの階層を観測していると言えます。
(ベルンは他の可能性のカケラも見ることができますが、ラムダは絶対の魔女なので全てのカケラでベアトを魔書であると認めていると考えられ、全てのカケラで1986年の2日間の真相を直接観測することができません)

また、ゲーム開始以前である1986年10月4日以前については情報が揃わないと観測不可能であると考えられます。

1986年の物語だけで真相を解けなかったベルンカステルは、航海者の視点から1998年の縁寿の物語を観測し、さらに縁寿を1986年メタ世界に召喚します(EP3ラスト~EP4)。
これはニンゲンの世界で1998年の縁寿が、1986年について書かれた創作物(真里亞の日記とメッセージボトルの物語)を読んだ結果の内面世界を魔女の物語として観測したと説明することができます。

以上のことをまとめると、ラムダが魔女ベアトの物語を観測し、それに対してベルンが魔女縁寿の物語を観測して対抗したという「航海者の物語」が展開されていることになります。
このラムダとベルンの戦い、そして戦人とベアトの戦いは、全てを理解した戦人の勝利(EP6)として終わります。
これはニンゲンの世界では十八がベアトリーチェの物語を完全に理解し、それを示す物語を執筆したことに相当する物語です。


4.フェザリーヌの観劇

階層図・改
 図4.造物主の視点から見た物語

ベルンとラムダの戦いである航海者の物語をさらに上位の視点(図4)から観測、すなわち「観劇」を行うのが観劇の魔女フェザリーヌです。
彼女はその容貌の特徴やベルンとラムダを絡めた数々の設定から「ひぐらしのなく頃に」のゲームマスターを務め、その物語を纏めた存在だったと考えて良いでしょう。
(おそらく「ひぐらし」の物語が終わった後から)眠っていた彼女はベルンカステルによって報告を受け目覚めます。フェザリーヌはまずその物語の全貌を掴む為に縁寿を「巫女」としてEP6までのゲーム盤を「朗読」させます(EP6)。
これはニンゲンの世界では十八が書いた偽書を縁寿に読ませたということを表しています。

そしてベアトのゲームの全貌を把握したフェザリーヌはベルンにベアトのゲームの答え合わせを命じました。それに応じたベルンはフェザリーヌから受け継いだゲーム盤と、別のカケラを用いてウィルと理御がベアトリーチェの物語の真相を暴くというゲーム盤を作ります(EP7)。
このことは真相を全て理解(EP6)した十八の説明をプロットとして、幾子がベアトリーチェのもう一つの可能性を考えながら物語に記したというニンゲン世界での出来事に対応します。


5.造物主の執筆~黄金の薔薇

造物主バトラ

フェザリーヌが造物主の力を持ちながら観劇や答え合わせを求めているのは人間界でフェザリーヌに対応する「八城十八」原案担当の十八と、執筆担当の幾子に分かれていることに起因しています(EP8)。
この時、十八の作成した原案を幾子が脚色する時に追加される世界観が航海者ベルンとラムダの物語であると解釈することが可能です(幾子を「ひぐらし」の作者であるという仮説では、十八の書いた六軒島ミステリーの原案を幾子が「ひぐらし」から派生したキャラクターで修飾するという解釈となります)

そして姿が幾子の方に対応しているフェザリーヌに対し、十八に対応する造物主の存在も想定されます。
それは作中には直接描写されず、EP6のTIPSで「彼の存在する層は、あらゆる者たちよりも上位である」と書かれているバトラです。彼のことはGMのバトラと区別するために便宜上、以降「造物主バトラ」と呼びます。

全ての謎を解き観劇した造物主バトラとフェザリーヌの最後の仕事は、多くのカケラで18歳で死んでしまう縁寿が救われるの為の物語を執筆することでした。
これは人間界では十八と幾子が縁寿の為に行動し、縁寿のための偽書を執筆したことに相当します。
具体的には、絵羽の日記の非公開宣言による世間の六軒島ミステリー騒ぎの収束と、縁寿に家族の暖かさを再確認してもらうための物語(EP8)を執筆しました。

まずベアトの猫箱の物語を書き終えたフェザリーヌは、最後に「黄金の薔薇」という物語のピリオド海の底の猫箱への手向けとして描写します。
そこに書かれた海に沈んだベアトリーチェを戦人が追う、という物語は前述したメタ世界の始まりに対応します。
それが86年親族会議の「第3日目」の物語で、戦人とベアトが海の底の黄金の猫箱に眠るという物語です。


6.最愛の魔女ベアトリーチェに捧げる物語

ベアトリーチェに捧ぐ

縁寿の人生の物語を「魔法エンド」まで描き切ったフェザリーヌは続きを書く前に眠りにつき、ラムダとベルンは新たなカケラを求めて旅立ちました。
そして眠りから覚めたフェザリーヌによって書かれたのが数十年語の未来の縁寿である寿ゆかりの物語です。
そこで再会を果たした十八を、寿ゆかりは福音の家に迎えます。そしてベアトリーチェの肖像画を見た十八から、戦人がベアトリーチェに迎えられるという幻想が描写されます。

これはベアトリーチェによって兄を奪われた縁寿が、ベアトリーチェの肖像画で十八を迎えた、すなわち海に沈んだベアトリーチェと海に沈まなかった戦人を再会させたいという意志を示したことで、縁寿に十八のメッセージが正しく届いていたことを意味しています。
それにより、十八だけではできなかった海に沈まなかった戦人と、その戦人が救うことができなかったベアトリーチェの再会が実現します。もしも縁寿が兄を奪ったベアトリーチェを許さずその存在を認めなかったら、戦人がベアトリーチェと再会する魔法は実現しなかったでしょう。しかし縁寿は十八とベアトリーチェを許し、その再会を願いました。

罪を犯したベアトリーチェが人生を奪った十八と縁寿に理解され、許される。そしてベアトリーチェを救えなかった戦人と黄金郷で再会する。
このように纏められた物語は「この物語を、最愛の魔女ベアトリーチェに捧ぐ」、の一文で締めくくられました。

その物語の贈り手は、造物主となったバトラであると考えるのが収まりが良いでしょう。
すなわち造物主バトラとは、ベアトリーチェを救えず、海に沈まなかった十八が全てを理解したことで生まれた概念だと言えます。

以上の話を造物主の物語の視点では、バトラが「ひぐらし」の物語を纏めたフェザリーヌと協力して「うみねこ」の物語をベアトリーチェに捧げるために創った、と解釈することができます。
これは人間界では十八と幾子が自身の人生を振り返り、EP1からEP8までの内容を物語に纏め、戦人からベアトリーチェに捧げる物語とした、と解釈しても良いでしょう。


まとめ

階層を整理し、「物語とそれに関わる人の内面世界」上位の階層から観測・執筆される物語と見ることで、「うみねこのなく頃に」のEP1からEP8までの長大で複雑な物語を、創作物のスケールからニンゲンの物語、魔女の物語、航海者の物語、そしてそれら全体を最愛の魔女ベアトリーチェに捧げる物語まで時系列順に整理することができました。
さらに、ここで語りきれなかった細部や別の物語(「ひぐらし」など)の考察もこの物語構造に当てはめて解釈していくことが可能だと考えられます。

以上のように、「うみねこのなく頃に」をミステリーとファンタジーの視点から多層に渡るメタフィクション的な世界構造で解釈することが、この魅力的な作品のさらなる理解と発見に繋がれば幸いです。